「あはっ、可愛いわねぇ……ボク」
鄒はその日捕虜として捕らえられた一人の武将の目の前に立ち、からかうように言った。
その武将は、およそ「武将」という言葉の似合わぬような容姿をした男だった。
少年とも、青年とも言いがたい年頃。いや、それどころか男と言い切るのが難しいような可憐な面立ちをしていた。
(この子、こんな体で戦に出ていたのかしら)
縄目を受けた白い手首は、頼りなさげであった。実際、無骨な縄がその柔肌に食い込んで赤い跡をつくっていた。
(これだったら、私のほうが幾分か役に立つかも分からないわ)
奇襲さえかけることが可能なら、こんな末成りなんて簡単に捕らえられる。
現に今、この少年は私の前に屈服してるじゃない……。
ぞわりと、ある衝動が鄒の体を駆け抜けた。
武将、孫静は生娘のように顔を赤らめて俯いている。
(可愛い子……食べてしまいたい位……)
鄒はおもむろに履いていた簡単な履物を脱ぐと、その足で器用に孫静の体のある一点を優しく揉んだ。
途端、孫静は体を仰け反らせて可笑しな悲鳴を上げる。
「ここをこんなにして……悪いコ」
孫静は、後ろ手に縛られて体の自由が利かなかった。
足をおおきく広げるようにして座ってはいたが、纏っている、戦には不向きにも見える衣服のおかげでまったく肌はみえなかった。
その体の……ただ一点。可憐な容姿でありながらも、唯一その性を主張して屹立している部分を鄒は見逃さなかったのだ。
「そんなに私に欲情したの?」
女は、わざと身を屈めて言った。丁度、孫静の目線からその豊かな体が見えてしまうよう計算の上で。
「……あ……」
孫静は、声にならない声を上げる。微かに掠れていた。眼前に、柔い女の肌がある。
まるで遊びみたく、軽く身に纏った着物の裾から、足が延びている。
そしてその足が……。
「……う、うぅ……」
眉根を寄せ、苦悶にも近い表情を浮かべながら、彼は呟いた。
「そ……そんなことは……」
その言葉は嘘だと、唯一二人が触れている部分が鄒に伝えてくる。
だが女は、口元に意地の悪い笑みを浮かべると言った。
「そう……?あぁ、残念ね……貴方さえ良ければ気持ち善いことしてあげたのに……」 

気持ち善い、その言葉を聞くと孫静は、目をかたく瞑って僅かに体を震わせた。
「まあ……私を見ても何とも思わないって言うなら仕様がないわね」
足を離した。優しくではなかった。半ば蹴るように乱暴に扱うと、また孫静は耳に心地よい声で鳴いた。
縛られた彼の両手が、時折びくびくと動いた。開放される筈もないのに。
ただ、こんなにも快感を望んでいるのに刺激を与えられない己が身を慰めようと、その為だけに。
鄒は、ふいと踵を返した。
「今日は遅いし、帰ることにするわね」
一歩踏み出した。二歩目を踏み出そうとしたところで、ちいさな声が聴こえた。
「……してました」
喜色満面で、女は振り返る。
「えっ、何?大きい声で言ってくれないと、聴こえないわ」
意地悪い笑みを湛えて。孫静は、ぐっと口を噤んだあとで、瞳を涙で潤ませながら、哀願した。
「あなたに欲情してました。……気持ちいいこと、してください……」
言った後で、彼は叱られるのを待つ子供のように、ぐっと体をちぢこめた。
首筋まで赤く染めて、目をかたく瞑ったままで。
(ふふ……あぁ、こういう美少年の反応ってほんと、快感だわ)
鄒は意地の悪い笑みをそのままに、舌なめずりをしながら孫静の前に屈みこんだ。
広い布地を器用に捌くと、まだ幼い彼の雄を両手でそっと掴んだ。
他人に、それも女に触れられるなんてはじめてなのだろう。自分の体の一部でありながら孫静はそこを直視出来ずにいた。
「熱ぅくしてあげる」
細い指が、乱暴気味にそれを扱き上げる。と同時に、少年は喘ぎとも悲鳴ともつかない声を上げた。
が、どれだけ叫ぼうとも、呉の兵たちはおろか、鄒の私兵達の許にも、その声は届くことはない。
壁の厚いこの地下牢に孫静を放り込んだのも、それが理由だった。
喘ぎが、子供が泣くような切ないものに変わるまで、そんなに時間はかからなかった。
はじめに比べてみれば、そのなきごえに艶が入ってきているのは歴然だった。
他人に、乱暴に扱われている。それも、妖艶な美女に。
それを意識すると孫静は一際おおきな喘ぎを漏らした。結い上げた長い髪が頬に貼りついていた。 

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