夏の頃、建業の夜は熱気につつまれていた。僅かに冷涼な空気の流れる日没後は町に活気が溢れるが、既に月が高く上がり夜も更け町に動くものの姿は少なかった。巡回の兵士と要所を守る夜の番に当てられた兵士。その程度である。
ほとんどの家屋が明かりを消していた。かけられた火のほかは唯一月だけが雲のない空で煌々と輝いている。
その建業の片隅、もし見るものがあれば、風を通すための窓から差し込む月明かりに照らされて、床(しょう)の上に小喬がいるのが確認できたことだろう。
そこらへんには服が散らばり、小喬自体は薄物一枚をかろうじて羽織っているばかりである。熱と湿気のことを考えれば仕方がないというべきだろうか。
だが、耳を澄ませばかすかに喘ぐ小喬の声が聞こえただろう。
「は……ぁん……」
左手は自らの胸を揉みしだき、秘部で蠢く右手指が月明かりにてらてら塗れている。
次第に両の腕の動きが激しくなり、かすかな嬌声の他にくちゅくちゅという水音が混じり始めた。
見えない何かに抗うように体が突っ張り、丸まり、萎縮する。自らの声に気付いたか薄物の裾を噛み、やがて突き入れられる指の本数が二本になり、三本になり、一層激しく突きこんだところで小喬の体が弓なりに跳ね上がり……果てた。
高まるにつれ大きくなっていた床の軋む音も、艶やかな水音もぴたりと止まる。
「はぁ……はぁ……んっ!」
隠しようもない吐息だけが残る室内で、にゅるりと三本の指が抜け、また軽く達する。汗と涎と愛液に塗れた薄物を脱ぎ捨てると、散乱していたうちの一枚を拾い上げ包まった。
(また……やってしまった……)
涙を滲ませて小喬が顔を伏せる。周瑜が生きていた頃、毎夜毎夜交わっていた頃も、周瑜がいなければ自慰に耽ることはたびたびあったが、現在では夜がくるたびにこうやって自分の体を慰めるようになっていた。
……ひたり、ひたりと、近づいてくる足音を小喬は地伝いに聞いた。
急いで服を取り繕い、床(しょう)の上にへたり込んだところで扉が開く。
「酷い有り様ね」
「……姉様」
呼びかけに答えず大喬はするりと室内に滑り込み、小喬の横に腰掛ける。
少しばかり反射的に後ろに引いて、小喬はもう一度問い掛けた。
「姉様、どうして……」
無言のまま大喬は小喬の秘所に手を伸ばす。
「あっ!」
ことが終わったばかりでまだ敏感になっているそこをぐちゅぐちゅと乱暴に掻き乱し、快楽に耐えようと目を瞑り服を強く握る小喬を見て大喬は興が殺がれたとばかりに手を離す。かわりに服を捲り小喬のそこを露出させ片手で足を開かせて、顔を近づけて一つ舐めた。
「ひぁっ!」
たまらず声を上げ、サーッと顔を紅くする小喬に、大喬は笑みを浮かべて言う。
「いやらしい味ね。……わかる? この部屋にこの香りが充満しているのが。男の方がここにいたら、一瞬で勃ってしまうでしょうね」
半ば隠れていたクリトリスを舌で剥き、転がし、一方で押さえつけている手とは逆の手で膣を刺激する。
「みえるかしら。陰核をこんなに勃起させて、膣を震わせて……このいやらしい体で、孫策様も誘ったの?」

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