「ここからが正念場ですよ」
「だめ……やめ、っ!やっ……んあぁっ」
駄目。止めて。
そう言いたかったのに言葉の途中で途切れてしまう。
いっそ罵ってしまいたいけれど、もう口からは喘ぎ声しか出ないような気がして、必死に口をつぐむ。
荀攸殿の足は、先ほどよりも小刻みに動いている。
振動してると言ってもいいくらいにだ。
ただそれだけの動きなのに、抑えている声が漏れてしまう。
「っひぁ、んぁ……んくぅ、ゆるし、て、ひゃぁぁッ」
「私は咎めているわけではありませんよ」
いじわる。
こんな責めをする人が簡単に許してくれるわけがない。薄々わかってはいたのに涙がこぼれる。
行為は激化するでもなく、終わるわけでもなく、ただ同じ振動を同じ場所に与えられ続けた。
抑えきれなくなりはじめた私の反応だけが、次第に大きくなってゆく。
急に城内が歓喜の声で騒がしくなりはじめた。
どうやら戦場からぞくぞくと帰城してきているらしい。
戦は勝利で決着したらしく、猛者達の雄叫びにも似た声が城が満ちる。
声を聞かれてしまったら……ふと浮かんだ考えにぞっとする。
こんなところ誰にも見られたくない。必死に口をつぐむ。
「も、もぅ……ぅうぅぅぅっ!っあぁああんっ!」
私は刺激に耐え切れず、甲高い声をあげてしまう。
考えは真っ白になって、何も考えられない。
足だけで絶頂を迎えさせられて、屈辱で胸が張り裂けそうになる。
恍惚の頂上にたどり着いた私に、荀攸殿の責めを拒む力は全くなかった。
というよりも意識を手放してしまい、拒むことも、更なる責めの懇願もできなかった。
文姫が意識を手放したのに気付き、荀攸はつかまえていた足をそっと降ろす。
興奮で荒くなっていた自分の息が整っていくほどに、眉間のしわが深くなる。
無理矢理に自分の願望を叶えてしまった。
その事実に反吐が出そうになる。
自分が行った行為の跡を眺める。
紅に染まった首筋。汗が玉になって浮かび、数本の髪が彼女の顔にはりついている。
顔を逸らされているが、目の際から涙が滲んでいた。
旗袍はめくれ上がり、むちむちと適度に肉がついた太ももはつけ根まで外気に晒されているのだが、
上着は手をつけていなかったために乱れは少ない。
秘所を守護する白い下着は、溢れだした粘液でぐっしょりと濡れて透けている。
小さな唇から漏れる息はまだ荒く、時折びくりと体が痙攣する。
密かに愛しく思っていた娘にこのような非道ができるのかと、後悔だけで胸が裂けそうだ。
「荀攸!荀攸はおらぬか!」
主公の、曹操殿の呼び声が聞こえる。
もう少し自分が汚した姫の恥態を目に焼きつけておきたかったが、
もし、この場が噂になれば、文姫を恋慕う男達から命を狙われかねない。
荀攸は静かに退散した。
───戦の熱に当てられて、どうかしていたんだと思う。
じゃなきゃ……あの優しそうな荀攸殿が、あんなことするなんて信じられないんです。
それと、足先だけであんなに乱れてしまった自分も……。