「あなた」
控えめな、それでいてはっきりと自分を呼ぶ声に司馬懿ははたと我に返った。
目の前には大量の文字を記した竹簡の山。
しかし、部屋の中はおよそ書き物を記すには相応しくない程に闇に包まれていた。
「あ、ああ…もう暮れていたのか」
「また日の落ちるのも気付かない程に、没頭されていたのですね」
差し出された手に握られた、湯気昇る器には酒精を飛ばした酒を混ぜた白湯。
一日の終わりに愛飲するそれの準備を、目の前の妻…春華は欠かした事がない。
「あにゃたー」
灯を点すと同時に、春華の後ろからあどけない声がした。
「こら、師。父上とお呼びしなさいといつも言っているでしょう?」
嗜めるような母の声に息子の師は不満そうに僅か頬を膨らませていたが、
衣の裾を握った手を緩めることはしなかった。
「ちちうえー、ごはんできたよー」
「よしよし、そうか」
器から白湯を啜りながら、司馬懿が空いた手で師の頭を撫でると嬉しそうにその腕にじゃれついてきた。
「まったくもう。今日で2歳になるというのに」
「何、子供というのはこんなものだよ、春華」
お前だってそう昔の事ではあるまいに。
そう言いかけたのを止めた。
何も子の前で母の威厳を無くしてやる必要もない。
「さて、そろそろ飯にしようか。祝いの膳だからな、しっかり食べるんだぞ、師」
「はい、ちちうえ!」
息子の手を取り、妻の肩を抱いて司馬懿は書室を後にした。



「幸せそうに寝てますわね」
「お前が酒を飲ませるからではないか…」
「あら、年に一度くらいなら良かろうって仰ったのは貴方ですよ?」
気持ち良さそうに寝息を立てる息子の顔を左右からそれぞれ覗き込みつつ、
明らかに頬が上気して酔い寝したと見える子供に対する責任を軽くなすりつけあった。
「しかし」
話を切り上げようと身を起こしながら司馬懿は呟く。
「師は聡明だが若干無謀の気がある。一人ではその内己の知恵に溺れて命を落とすやもしれんな」
この乱世なら、尚更に。
嘆息する司馬懿の首に、するりと春華の腕が巻きついた。
「それならば…」
まだ幼さすら残る顔、けれど大人びた瞳がひたりと司馬懿を見つめる。
「師を諌める聡く慎重な子を、弟として与えてやれば良いではないですか?」
「…名案だ」
にいっと口角を釣り上げ、春華の腰に両腕を回し抱き上げた。


「きゃ…っ」
寝床の布団に落ちた二つの体に、枠が小さな軋みを上げる。
司馬懿は春華の両手首を右手で斜に握り、そのまま枕の上へと押し付けるようにして動きを封じた。
左足が狼狽する両足の間に割り込んで閉じないようにし、左手でそうっと頬を撫でる。
ピクンと戦慄いた春華の顔を覗き込んで司馬懿が笑う。
「最近無沙汰だったからな、お前の好ましいようにしようか。強引にするのが善いのだろ?」
「…そんな、こと…」
いつもの気丈さは何処へやら、耳まで赤くして視線を逸らす。
その様子に満足そうに頷いてから、ゆっくりと口付けを交わす。
然程抵抗もなく、唇を割って滑り込ませた舌で丁寧に口腔を擽ってゆく。
特に弱い上顎の裏を突付かれると、組み敷かれた体の下で足が小さくばたついた。

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